今いる状況を前向きに受け入れ最善を尽くす

自らを“自由すぎる主婦”と称する山口裕美子さんは、その“ゆるふわ”な雰囲気からはまったく想像できないほどタフなビジネスマインドの持ち主。現在は、極薄マイクロファイバー生地のビーチタオルブランド「The Beach Chic(ビーチシック)」を立ち上げ、ECサイト上にて展開しているが、単なるサイト運営者とは一味も二味も違っている。

なんと彼女は、自らが交渉し開拓した中国の工場に依頼して、自らがデザインしたタオルを製造し、さらに、それを自らが立ち上げたWEBサイトにて販売。しかも、主婦として家事や子育てをしながら、そのすべてのビジネスフローを一人で手掛けているというから驚きだ。

 

「経営者である私の父が、中国の青島にバッグの検品工場をもっていまして、私の夫がその経営を任されることになって、家族で赴任しました。それから4年半にわたって、私は専業主婦生活を続けていたのですが、息抜きと称して毎年、子供と2人で大好きなハワイ旅行に出かけていたのですね」

 

ある時、ハワイに住むイタリア人の友人が持ってきた“イタリアで流行っている”という、一枚の薄いビーチタオルに出会ったという。

 

「使ってみると、ものすごくいい。けれども、日本では売っていない。ふとタグを見てみると“Made in China”とあったのですよね。そこで、直感的に、“これ、中国で作って日本で販売しよう”と思い立ったのです」

 

結婚前には料理雑誌の編集に携わったり、著名な料理研究家のマネジメント経験はあったものの、ビジネスを立ち上げるのははじめてのこと。しかし、その後の山口さんのアクションは驚くほどアグレッシブなものだった。

 

「中国に戻ったら、すぐに工場探しをはじめましたね。こんなビジネス経験もない主婦が一人で交渉に出かけたら、日本であればすぐに門前払いなのでしょうが、中国ではウェルカム。相手がどんな会社なのかも気にしない。投資やビジネスが大好きなチャレンジャーが多い国なんです。サンプルを持参して“これを作って、日本で売る”という話をしたら、けっこう興味をもってくれるのですね」

 

中国は、低コストでモノづくりができる。だから、失敗しても痛くないなという大前提があったという。“お小遣いの範囲内でチャレンジして、売れなかったら、友達にあげればいいや”と。

 

「とにかく、負担にならない範囲でやるだけやってみて、自分の力を試してみようと思いました。これくらいだったら、たとえ失敗しても思い出になるしと、そんなノリで進めていったのですが、やりはじめたら面白い。デザインも自分でやろうと思ったのですが、私はイラストレーターが使えないので、妹に手書きの絵を渡して、“こんな感じでやって”って頼みましたね(笑)」

 

自らが満足のいく生産体制を確保し、満足のいくデザインを施したタオルがようやく完成。それを手にした山口さんは、販売活動に乗り出すことに。

 

「販売戦略も何もなく、ずっと一人で脳内会議して逡巡しながら、とにかく大それたことは考えず、今の段階でやれるところまで個人でやってしまおうと思いました。日本に帰国するタイミングでECサイトを立ち上げました。最初は、お客さまといえば家族か友達でしたが、先月、はじめて雑誌のイベントに出展したら反響を得たのですね。それ以来、私の知人ではない人からも注文がくるようになって(笑)。本当に少しずつですが、前に進んでいる実感があります」

 

山口さんは、このビーチシックタオルを実際に自分が使ってみて、本当に良いものだと実感したからこそ、自信をもってお勧めできるのだという。

 

「ペラペラに薄いマイクロファイバー生地なので、コットンタオルに比べて半分以下のコンパクトサイズ、4倍の速乾性という特徴を持っています。ビーチやプールでの利用に便利であるのはもちろん、毎日のバスタイムから、ヨガやスポーツクラブ、登山、キャンプまで、様々なシーンでご活用いただけます」

 

ビジネスと主婦業の両立を図りながら、パワフルに活動する山口さん。これまで経験してきた編集職やマネージャーという仕事の中では、主体的に何かを発信するという機会には恵まれなかった。

 

何かをやりたい。でも、それが見つからないままに結婚し、子どもを出産して育てる中で、外に働きにいくのが難しくなっていた。それでも、チャンスを見つけて、活かしたいという思いが根底にあったのだという。

 

「女性は、結婚、出産を通じて、家族に自分の人生をあわせて生きる時期があるという。子育て中は、まともな会話といえば、スーパーの店員さんだけなんて日や、海外転勤についていけば、その会話すらままならない中で、生活に埋没してしまう。そんな環境でも、その時の自分にできることを努力すればいい。今いる状況を前向きに受け入れて、最善を尽くすことの大切さを、私が以前マネージャーをしていた料理研究家の先生から教わりました」

 

タオルの在庫を前に、本当に完売する日がくるのだろうかと思った日から1年がたった今年の夏、最初に作ったロットはすべて完売。新商品もできた。そんな山口さんの次なる夢は、ハワイ進出。もちろん、今の自分にできる小さな一歩から。夢は限りなく広がっていく。

 

The Beach Chic

http://www.thebeachchic.com/

 

インタビュー・文:伊藤秋廣(エーアイプロダクション)

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